では、順番が回ってきた時、彼は、どんな「夢」を語ったのかというと、「世間をあっと驚かせるような事をしたい・・・」と言ったのです。某には、さっぱり意味が分からなかったので、「具体的にどういう事ですか？」と尋ねると、彼は、一瞬、言いかけて、はっと我に返り、そっけなく、「今は言えません・・・」と答えました。ただ、そう言われると、こちらも気になるので、「ひょっとしたら、訪問看護ステーションを経営して、大儲けするんですか・・・・・？」と某が当時考えていたおぞましいアイデアを言ってみました（笑）。すると、また、そっけなく、「いえ、違います」との事でした。そこで、ますます気になった某は、「（皆が聞いているにもかかわらず）じゃあ、誰にも言わないから、先生にだけ、特別にヒントを教えて下さい」とお願いしましたが、彼は、少し笑いながら「どうしようか」としばらく考えた後、首を激しく振って、再び、「いや、できません」と強く言い切ったのです。それでも、某はあきらめがつかなかったので、にやけながらジョークで、「じゃあ、特別の特別なら、ヒントをくれてもいいですか？」とお願いするも、またまた、駄目の一点張り・・・・・。「とりつく島がない」とはこの事です。その時は、「くそっ、じらしやがって・・・・・（いや～ん、じらさないで・笑）」と、腹立たしく思いましたが、仕方がないので、ギャグで、「特別の特別の特別なら、いいですか・・・？」としつこくネチネチ尋ねてみました。もちろん、彼は答えなかったんですが、この時、（こちらの計算通り）クラスに笑いが生まれたので、「（話が）落ちた・・・」と思い、大阪人としては満足し、そこで、この話題はストップしました。

 ですが・・・・・、「ん～、しかし、世間をあっと驚かせるような事とは、いったい、何なんでしょうねえ・・・・・？」と、某がついつい残念そうにつぶやくと、優しい「Yガミ君」は、某の事を可哀そうに思ったのか、ちょっと真面目な表情で、「そのうち分かります・・・」とだけ言いました。某は、辛抱が苦手なので、「そのうちって、いつですか？」とまたまた尋ねてみました。しかし、彼は、笑いながら少し考えた後、「そのうちです・・・」と言って、それ以上は語ろうとはしませんでした。最後に、「じゃあ、どういう方法で分かるんですか？」と尋ねると、Yガミ君は、「どういう方法・・・？んっ・・・・・、新聞」と答えたのです。普通なら、ここで、「えっ、新聞沙汰？」となるはずだったんですが、某の思考が、先程の訪問看護ステーションの大々的経営に引きずられていて、某は、「ああ、やっぱり、訪問看護ステーションの新聞広告を大きく出すんですか・・・・・」と合点がいってしまったのです。今から思うと、Yガミ君は、某にヒントをくれてたんだ・・・・・（驚）。そういえば、授業が終わって、皆が某の横を通り、扉から出ていく時、一人の女子高生が、わざわざ某に、「私、あの人、怖い。なんか事件を起こしそうで・・・」と伝えてくれたのですが、「えっ、なんで？大人しくて真面目な、普通の人ですよ・・・・・。同志社大学卒の人だし・・・・・」と答えてしまったのです。女子高生が耳を貸さない某にあきれて立ち去る時、「この人、阿保や・・・・」というつぶやきが聞こえたような、聞こえなかったような・・・・・。今から思えば、本当に「阿保」だったと思います。皆が帰った後、Yガミ君だけが一番後ろの席に座り、冷め切った顔でしばらくこちらを見ていたのが思い出されます。そして、最後にYガミ君が扉を出ていく時も、「こいつ、阿保や・・・・・」というつぶやきが聞こえたような聞こえなかったような・・・・・。今から思えば、Yガミ君は、某に、心を許そうとしてくれていたんじゃないのか、そして、救いを求めていたんじゃないかと思うと、事件を止められなかったのが残念でなりません。